弁護士費用特約(弁護士費用等特約)とは、交通事故により相手と揉めてしまった場合の弁護士等の費用を補償する自動車保険に付帯できる特約です。
「交通事故で弁護士に依頼する場面はそもそもあるの?」
「事故の交渉を大げさにしたくないから、保険会社の専任担当者に全て任せたい!」
と感じる方がいらっしゃるかもしれません。
ただ、、、交通事故には保険会社の専任担当者では法律により示談交渉できず、弁護士しか示談交渉できな事故のケースがあります。
このような場合、事故の解決を弁護士に依頼してしまうと多くの費用がかかってしまう可能性があります。
こんなときに、弁護士費用特約がとても役に立つのです。
この記事では、弁護士費用特約の詳しい内容から、どんな時に必要なのかを解説していきます。
- 弁護士費用特約の詳しい内容や保険会社ごとの違いが知りたい!
- 弁護士費用特約がどれくらい必要なのか知りたい!
このように感じていらっしゃる方は、ぜひご覧ください。
そもそも弁護士費用特約の補償内容とは?
この章では、弁護士費用特約の補償内容を解説します。
弁護士費用特約の補償内容
交通事故を起こしてしまった際に、被害者と加害者は損害賠償の内容を決めるために示談を行います。
一般的には、双方の当事者を代行してそれぞれの加入している保険会社の専任担当者が示談にあたります。
しかし、保険会社の専任担当者では法律的に示談を行えないケースや、折り合いがつかずに裁判になるケースがあります。
このような場合、弁護士に依頼をしなければなりません。
弁護士費用特約は、この弁護士にかかる費用を補償する特約、および保険になります。
主な補償内容は下の通りです。
補償する費用 | 費用の詳細 |
弁護士費用等 | ・弁護士、司法書士、行政書士の報酬 ・訴訟費用、仲裁、和解、調停の費用 |
法律相談費用 | ・弁護士、司法書士、行政書士の相談費用 |
弁護士だけではなく、交通事故に関わる司法書士や行政書士の費用も補償されます。
また、弁護士への相談費用も補償されるため示談が難航しているとき、この特約を付帯していれば費用を気にすることなく弁護士に相談することができます。
保険会社ごとの弁護士費用特約の補償限度額
弁護士費用特約は全ての保険会社で付けることができます。しかし、補償内容は保険会社ごとに少し異なります。
また、名称も「弁護士費用特約」で統一されていません。そのためこの特約を付帯する場合は、補償内容をしっかり確認して付帯して下さい。
ここでは、主な保険会社の弁護士費用特約の補償と限度額を記載します。
代理店型の自動車保険会社
保険会社 | 補償と限度額(1事故1名あたり) | |
弁護士費用等 | 法律相談費用 | |
東京海上日動 | 「弁護士費用等」「法律相談費用」合わせて、300万円 | |
損保ジャパン日本興亜 | 300万円 | 10万円 |
三井住友海上 | 300万円 | 10万円 |
あいおいニッセイ同和 | 300万円 | 10万円 |
AIG | 300万円 | 10万円 |
代理店型では、東京海上日動が「弁護士費用」「法律相談費用」を合わせて補償するため、それぞれの限度額を合計すると10万円分の限度額が他の保険会社に比べて少なくなります。
しかし、ほとんどの場合、「弁護士費用」「法律相談費用」の合わせた費用は100万円程度が相場になっているので気にすることはありません。
このため、どこの保険会社も十分の補償と言えるでしょう。
代理店型の自動車保険会社の弁護士費用特約は、「自動車事故のみ」、「日常生活の事故を追加」の2種類が存在しています。
「自動車事故のみ」は、自動車事故が起きたときに弁護士を依頼した費用を補償します。
「日常生活の事故を追加」は、日常生活でモノやヒトを傷つけて相手と揉めたときに、弁護士を依頼した費用を補償します。
「日常生活の事故を追加」は、自動車保険で日常生活で起きた事故の弁護士費用を補償してくれるので保険料に余裕がある方は加入しても良いかもしれません。
ダイレクト型の自動車保険会社
保険会社 | 補償と限度額(1事故1名あたり) | |
弁護士費用等 | 法律相談費用 | |
ソニー損保 | 300万円 | 10万円 |
チューリッヒ | 300万円 | 10万円 |
三井ダイレクト | 300万円 | 10万円 |
アクサダイレクト | 300万円 | 10万円 |
SBI損保 | 「弁護士費用等」「法律相談費用」合わせて、300万円 | |
イーデザイン損保 | 「弁護士費用等」「法律相談費用」合わせて、300万円 | |
セゾン自動車保険 | 300万円 | 10万円 |
セコム損保 | 300万円 | 10万円 |
ダイレクト型では、SBI損保とイーデザイン損保が「弁護士費用等」「法律相談費用」合わせて300万円となっています。
これは、代理店型である東京海上日動のときと同様に他の保険会社と補償の限度額の合計金額が少なくなりますが問題ありません。
このため、どこの保険会社も十分な補償内容といえます。
代理店型の弁護士費用特約では、「自動車事故のみ」、「日常生活の事故を追加」を選ぶことができましたが、ダイレクト型では「日常生活の事故を追加」を選べない保険会社があります。
もし補償範囲を日常生活の事故まで広げたい場合は、「日常生活の事故を追加」が付帯できる保険会社を選びましよう。
弁護士費用特約の補償範囲
弁護士費用特約の補償を受けられる方は下の通りです。下記の範囲の方が、所有、使用、管理をしている自動車で起きた事故の弁護士の費用が補償されます。
弁護士費用特約の補償範囲
- 記名被保険者
- 記名被保険者またはその配偶者
- 記名被保険者またはその配偶者の同居の親族
- 記名被保険者またはその配偶者の別居の未婚の子
- ご契約のお車に乗車中の方
- ご契約のお車の所有者
記名被保険者とは、契約をしたときに決めた保険が適用される中心人物のことを指します。
保険は記名被保険者を中心として、配偶者や子供を特定します。
基本的には同居している家族であれば、この特約は適用されます。また、そのご家族が契約している自動車とは別の自動車に乗車しても補償されます。
このため、弁護士費用特約は家族が何台も自動車を持っていても、1つの自動車に付帯してあれば補償されるのです。
もし家族で何台も自動車を持っている方で2台以上にこの特約が付帯されている場合は、保険料の節約のため1つにまとめることをオススメします。
注意ポイント
家族が所有する自動車で弁護士費用特約を2つ以上つけている場合は、1つにまとめるとお得になる
弁護士費用特約の使えないケース
弁護士費用特約には使えないケースがあります。主なケースは下の通りです。
弁護士費用等補償特約の使えないケース
- 無免許運転や酒気帯び運転により、運転者本人に生じた損害
- 地震・噴火またはこれらによる津波によって生じた損害
- ご契約のお車を競技または曲技のために使用することによって生じた損害
無免許運転や酒気帯び運転は、運転者本人以外に生じた損害については使うことができますが運転者本人に生じた損害に関しては使うことができません。このような行為は必ず行わないようにしましょう。
自動車保険と飲酒運転の関係は、下の記事に詳細が書かれているので参考にして見て下さい。
-
「飲酒運転」では対人賠償責任保険、対物賠償責任保険は補償される!!
【4分で読めます。】 自動車保険では、「故意または重大な過失」による事故で損害が発生してしまった被保険者は保険金が支払われません。 このため、飲酒運転による事故に関しても保険金が支払われないと思ってい ...
続きを見る
弁護士費用特約と等級
弁護士費用特約はノーカウント事故に該当します。この特約を利用するだけでしたら何回使っても等級ダウンはありません。
しかし、この特約と他の保険(対人賠償責任保険、対物賠償責任保険、車両保険等)を併用する場合は、事故状況により等級ダウンが発生するので注意が必要です。
等級ダウンしない事故の例
- 相手が100%悪い事故で弁護士費用等補償特約を使う場合
上記の例は、相手が修理費や治療費を全て負担することになるので、この特約の使用のみとなります。そのため、等級ダウンはしません。
弁護士費用特約が必要なの?
弁護士費用特約は、必ず付けておきたい特約です。この章では、弁護士費用特約の必要性について解説します。
保険会社の専任担当者が示談交渉を行えないケースがある
保険会社は契約者が相手がいる自動車事故を起こしたとき、契約者に代わって相手側と示談交渉を行い事故を解決します。
このことを示談代行サービスと呼びます。この示談代行は、保険会社の社員と、弁護士にしか認められていません。
これらに属さない方が示談代行を行なってしまうと、法律に抵触してしまいます(弁護士法72条)。
この保険会社が行う示談代行サービスには法律上の制限があります。それは、契約者側の過失がない場合は、保険会社の社員は示談代行できないというものです。
このため、契約者が過失はないと主張を行うと保険会社の社員は示談を行うことができないので、契約者本人が示談を行わなければならないのです。
ただし、弁護士は契約者側に過失がない場合でも示談を行うことができます。このため、事故の状況で揉めるときに弁護士に依頼するケースがよくあります。
なんで示談交渉を行えないの?
契約者側に過失がない場合は、弁護士法の非弁行為に該当してしまうため示談交渉を行うことができません。
非弁行為とは、弁護士以外の者が報酬目的で法律事務を行なってはならないというものです。
もともと保険会社の示談代行のサービスは、サービス開始当初から弁護士法に抵触する疑いがありました。
しかし、昭和46年の最高裁判決で示談代行は保険会社の社員で行うことができる判決が出ました。
これらの判決や取り決めの中で、保険会社の社員が示談できる規定を決めています。
この中で、「事故の相手から損害賠償請求された場合」という規定があります。
この規定があるため、契約者側に過失がない場合、もしくは過失がないと契約者が主張する場合は、相手からの損害賠償請求がないと認められるため保険会社の社員は示談交渉ができないのです。
弁護士費用特約を付帯する理由
上記に記載の通りに契約者側に過失がない場合は保険会社は示談交渉ができません。
契約者の過失がなくなる事故を「もらい事故」と言います。この「もらい事故」になるケースは下の通りに3つあります。
「もらい事故」になるケース
- 自分の車両(契約車両)が停止中のときに、相手が接触してきた事故
- 相手が赤信号で交差点に侵入してきた事故
- 相手が対向車線からセンターラインをはみ出して、接触してきた事故
これらの事故状況のときは非常によく揉める場合があります。
例えば、①のときは、駐車場内の事故が多いです。駐車場では双方が動いているケースが多く、また停止しているといっても動いている直後の停止は停止中と認められないので判断が非常に難しくなります。
ドライブレコーダーが付いていれば良いですが、付いてなければそれぞれの記憶を頼りにしなければなりません。
このような場合で、契約者側は過失がないと主張すれば保険会社は示談交渉ができなくなるのです。
そして、相手と主張が食い違っているのにご自身で示談を行うのは不可能に近いです。
そのため、弁護士に依頼するケースがあるのです。
また、「もらい事故」以外でも解決に法律の知識がいるケースがあります。このような場合も弁護士に依頼します。
このように複雑な事故に巻き込まれるケースを、私は保険会社の社員時代にいくつも見てきました。
このような経験からも、弁護士費用特約はとても必要な保険であると感じます。
自動車保険で付帯されていない方は、年間保険料も2000円程度なので付帯をオススメします。
まとめ
この記事のまとめ
- 弁護士費用等補償特約は、「弁護士費用」「法律相談費用」を補償
- 「もらい事故」で揉めるケースがあるため、弁護士費用特約を付帯することが大切
保険会社の専任担当者は「もらい事故」の場合、示談代行を行うことができません。
これは、弁護士の既得権益を守るために行われています。
全て保険会社で示談を行うことができれば契約者にとっても、保険会社の専任担当者にとってもスムーズなことがよくあります。
しかし、現状での解釈では弁護士しか示談することができません。
この中で私たちができることは、少しでも事故の費用を減らすことです。
そのため、弁護士費用特約は付帯しておかなければならないのです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。